盛岡地方裁判所 昭和49年(行ウ)3号 判決 1977年3月10日
原告 医療法人仁医会 ほか一名
被告 岩手県知事
訴訟代理人 田村彰平
主文
本件訴をいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 <省略>
理由
被告は、行政処分に対する抗告訴訟において請求の対象とされうる処分は、これにより直ちに私人に対し特定、具体的権利の侵害ないし制約を生じさせるものでなければならないところ、都市計画法八条一項による用途地域の決定の一環としてなされた本件工業地域指定処分は、いわゆる一般処分であり、規範の設定の如き性質を有するものであつて、これにより直接私人に対し、特定、具体的権利の侵害ないし制約を生じさせるものではないから、未だ処分性を欠き、抗告訴訟の対象となりうる行政処分に該当しない旨主張するので、先ず、都市計画法八条一項による用途地域の決定が抗告訴訟の対象となり得るか否かについて審案するに、都市計画としてなす用途地域の決定は、特定の個人に対しなされる処分ではなく、ある一定の範囲の地域を、ある種の用途地域に定めるにすぎないものであり、なる程、都道府県知事が都市計画として用途地域を定める決定をなし、その旨を告示すれば、その都市計画はその告示のあつた日からその効力を生じ(都市計画法二〇条)、その地域内においては、建築基準法四八条、五二条、五三条等により、特定の建築物の建築が禁止され、容積率(建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合)、建ぺい率(建築物の建築面積の敷地面積に対する割合)等につき建築制限を受けるに至るのであるから、その地域内に存在する土地、建物に関して権利を有する者は、建築物の新築、増築等について法律上の制限を課せられることは明らかであるけれども、かかる建築行為の制限は都市計画法以外の法律によりひとしく受けるものであつて、用途地域の決定自体の効果として発生する権利制限とはいえないうえ、右制限の存在により直ちに、その地域内の土地、建物の所有者等の権利に具体的変動を及ぼすものとも解しえない。従つて、用途地域の決定は、直接、特定の個人に向けられた具体的な処分ではなく、また施行区域内の土地、建物の所有者等の有する権利に対し、具体的な変動を与える行政処分ではないといわなければならない。そして、施行区域内における建築物の新築、増築等について不許可処分がなされた場合には、用途地域決定の瑕疵を主張して、右の不許可処分の効力を争うことができ、これによつて、具体的な権利侵害に対する救済の目的は、十分に達成することができるものと言うべきであるから、直接それに基づく具体的な権利変動の生じない用途地域決定の段階では、未だ訴訟事件としてとりあげるに足るだけの事件の成熟性を欠くものと言わざるをえない。
よつて、都市計画法八条一項による本件用途地域決定の一環としてなされた本件工業地域指定処分については、無効確認訴訟及び取消訴訟の対象とはなし得ないものと解するのが相当である。
結論
以上のとおりで、原告らの本件訴は不適法であるから、いずれもこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 根本久 須藤浩克 三浦潤)